顎関節症で歯科医院を受診されると、スプリント療法というマウスピースを使った治療がほとんど行われています。
私もかつてこのスプリント療法を散々行ってきましたが、このスプリント療法によって噛み合わせが崩れ、かえって顎関節症が悪化してしまうことも数多く生じたため、現在私は緊急避難的に症状を緩和させるためにごく短期間、一般的に使われているマウスピースを使用することは稀にありますが、ほぼ現在は行っておりません。
歯医者さんに行かれてかなり多くの方が受ける治療がこのスタビライゼーションスプリント(全歯接触型スプリント)というマウスピースです。
このマウスピースの目的はそもそも全部の歯が均等に当たることで顎の位置を安定させる目的で使われます。
しかし現実的に全部の歯を均等に当てることはとても難しく、元来の目的に達する装置はなかなか作ることが出来ません。
ただそれでも一時的にはこのマウスピースの厚みによって下顎頭が引き下げられ、関節窩と下顎頭の間に隙間が生じ、症状が改善されることがあります。
ただ実際の歯、特に奥歯には山あり谷ありです。この山や谷にはすごく大切な役割があり、この上下の山と谷とが噛み合うことによって、下顎が過剰に前後にブレるのを防いでいます。
しかし、ここに真っ平なスタビライゼーションスプリントを入れてしまうと、この歯の山と谷の役割を消してしまって、下顎がかえって不安定になることがあります。
このように不安定になった下顎は筋肉のバランスによって前後にぶれてしまいます。
ただ顎関節症の方は元々下顎を後ろに引く筋肉が強いので、このようなマウスピースを長い期間入れると下顎後ろに下げてしまう作用が生じます。
このようにスタビライゼーションスプリントを長期間使用していると、下顎は後ろに下がってしまいます。
さらに噛み合わせの高さを長期間過剰に上げてしまったことによって、下顎は後方に回転してしまいます。
その結果、前歯が空いてしまって奥歯でしか噛み合わなくなってしまいます。
この現象はスタビライゼーションスプリントを使う期間が長いほど、その傾向はさらに強まります。
こうなってしまうと元の噛み合わせに戻すのはとても難しくなります。
顎関節症で用いられるマウスピースは前述のスタビライゼーションスプリントが圧倒的多数ですが、少しこれより専門的な前方整位型スプリントというマウスピースがあります。
このマウスピースは下の前歯に接するところに、下顎を強制的に前方に誘導するガイド面がついているものです。
元々顎関節症は下顎が後ろに下がってしまうために生じる病気ですので、下顎を強制的に前に出して顎関節の症状を改善させる理屈です。
このマウスピースは効果がものすごく強いため一時、私はかなりの数を入れていましたが、下記の弊害を多く経験して現在ではほとんど使わなくなりました。
またこのマウスピースは顎関節症の治療以外に睡眠時無呼吸症の治療でもよく用いられております。
このマウスピース、口が開かない重篤な症状を短期間で改善できる利点はありますが、長期間使用しているとこのような大きな弊害もあります。
元々顎関節症の方は下顎を後ろに引く力がとても強いですが、その筋力に逆らって前歯のガイド面を使って下顎を前方に強制的に誘導します。その際、下顎の前歯に大きな力がかかり下顎の前歯は外側に倒れていきます。
その現象によって前歯が当たりすぎてしまうため、それを避けるためにさらに下顎は後ろに下がってしまいます。
また奥歯が空いているのでこのままでは嚥下がしづらくなります。そのため身体はこの奥歯の隙間に舌を挟み込み嚥下しやすくします。
この舌の癖はそのまま残ってしまい、奥歯が全く噛み合わなくなることもあります。
*顎関節症治療に於いて当院では健康保険による治療は行っておりません。